雨やどり


岡田淳さんの本を読む -- ポアンアンのにおい

キャラクター

読後、登場人物たちへの親しい気持ちが、強くある。この物語のことや、浩や陽子、それからシカシやポアンアンのことを、もう忘れられないだろう。
シカシやポアンアンはキャラクターがはっきりしている。「くるくる」と、うれしそうにささやくシカシがかわいい。浩はシカシに対して腹を立てたりもするが、読者としては、あまりに憎めないキャラクターなのだ。もちろん浩の立場なら、もちろん腹を立てているだろうけれど。
浩や陽子は普通の子どもだ。それなのに、その普通の男の子や女の子が、こんなにも印象に残る。普通の男の子でありながら、そのひとりひとりが性格をもっていて、浩は浩らしい、陽子は陽子らしい性格がきちんと描かれている。個性がよく分かるのは、はじめからキャラクターばかりが先走り過ぎていないからなのだろうか。もちろん作者の中にはあるのだろうが、読者は、たとえばクラスメイトの一人として、彼らのことをだんだん知っていくような感覚がある。浩も陽子もかなりいいやつだ。ふたりも、知らなかっただけでお互いにいいやつだと知ることになった。

いい子

浩の言う「いい子」は、ほんとうに「そんなやつ、さがしたっていな」くて、笑ってしまう。陽子が「ほんとうのあなたも、とてもいい子だと思うわ」とノートに書いたシーンは、♡で一気におもしろおかしくなってしまう。陽子の性格がよく出ている。

臨場感

「わたしは大ガエル。」シカシのほんやく。「ルエガオオワシタワ。」ぼくの大声。「るえがおおわしたわ。」
一部を引用した。この場面の臨場感が、すごい。この場面のスピードは読者が決めるのではない。もしかしたら作者でもないかもしれない。シカシと浩のタイミングだ。そう思うくらい、目の前で起こっているような気がする。

ラストシーン

こんなにも印象に残って忘れられない理由にはやはり、ほんとうに起きたことだと、少なくとも浩と陽子(と読者)は知っているからだ、というのもある。この日起きたことを、浩と陽子はきっといつか話すだろう。そんなことがわかるラストシーンだ。


2019/10/30

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