雨やどり


岡田淳さんの本を読む -- 魔女のシュークリーム

シュークリムがだいすき

「ああ……! おかあさんは、ぼくがどれほどシュークリームをすきなのか、わかってないんだ」ダイスケがどれほどシュークリームをだいすきなのか、最初の章だけでとてもよく伝わってくる。ダイスケの言葉がどれも真剣だからだろう。
 

いのち

家を飛び出したダイスケは、カラスと黒ネコの話を聞く。魔女から自分たちの『いのち』を取り戻してほしいと言うのだ。『いのち』とは、生きていく力のこと。そして、生きていく力とは、夢や希望のもとになっているものらしい。すてきだと思う。“夢”“希望”という言葉は、よく考えると曖昧な言葉だ。曖昧なのに、一番見えやすいところにある。本当は、生きていく力があってこそなのだ。そのことが物語の中でダイスケの生活にあらわれることは、読者である私たちの生活にもいい影響を与えてくれる。
 

魔女のもとへ

いざ、魔女のもとへ行く。ガラスに貼りついた3匹と1羽が、いろいろ言っているのがかわいい。応援する彼らと、シュークリームにうっとりするダイスケ。一度食べ終えた後に元に戻ったシュークリームを喜んで食べるダイスケと、とりはだをたてたヒキガエルが涙して「ほこりたかきライオンのようだ」というセリフ。みんなが魔女にひっかけられたことをダイスケに伝えようとするシーンでは、応援してくれていると思ったダイスケがにっこりわらって、うなずく。終始、ちょっと食い違っているところがハラハラしておもしろい。
魔女が現れても、しゃべるときも、シュークリームを食べ続けている。剣をふるって戦うのではなく、シュークリームを食べ続けることが戦いなのだ。聞こえないふりをする3匹と1羽の挿絵がすごくいい。この物語は、緊迫した場面であろうといつもかわいらしくユーモラスである。
魔女の呪文は「シュークリームを嫌いになれ」を反対から言っている。呪文といえば、こそあどの森でふたごがポアポアにためしていたのもよかったし、透明人間になる呪文もすごく響きが良かった。こういうものの発想がすてきだなぁと思う。
そうこうしているあいだに、ダイスケは無事『いのち』を動物たちに返した。そのあとで魔女はダイスケにいろいろ言うが、「でも、シュークリームをきらいにした」と一点張りするダイスケがさすがだ。動物たちにとってもダイスケにとっても、めでたしめでたしである。しかし、魔女にとってはめでたしめでたしどころではなく、その後どうなったかも気になる。悪者が最後まで悪者というのは、残酷だけれどわざとらしくなくて、私は好きだ。
 
 
2020/01/03(あー、シュークリーム食べたい)

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