雨やどり


岡田淳さんの本を読む -- カメレオンのレオン ないしょの五日間
カメレオンのレオンが探偵になったばかりの頃の3つの事件とおまけのおはなし。

第一話『ピョンの魔法』

さらっと「大学を卒業して」と書かれている設定が面白かった。大学! 初めてのしごとの依頼があったとき、不安になっているレオンの、完璧でないところがいい。レオンのそういうところが好きだ。そのときのはりきったヒキザエモンさんもかわいい。はたから見ればほほえましい光景なのだけれど、レオンにとっては、なんと心強かったことだろう。
桜若葉小学校で、ピョンの魔法がどんどん広がっていく。このスピード感も岡田淳さんらしく、絶妙で、なんだかわくわくする。みんながピョンピョンしている「熱いフライパンのポップコーン」状態の光景は、とても可笑しい。実は大変なことになっているのだけれど、あくまで楽しい描写だ。校長先生に扮したレオンの言葉がけもよかった。最後まで楽しい雰囲気の中に子どもたちがいる。
ここでめでたしめでたしではなく、物語はもう少し、事件の「アフターケア」まで続く。そうして書かれたラストがとてもいい。レオンとヒキザエモンが魔法を手放したことも、その後ときどきざんねんに思うのも彼ららしく、とてもうれしい気持ちになった。

第二話『レオン、うっかりする』

レオンがうっかりをしでかしたことで、アユミが「つらいめにあってしまった」という事件。思いやりというより、ただ自然とそう思えるレオンが好きだ。つらいめにあったことをどう解決するか。子どもたちや先生が反省しただけでなく、お互いに信じることができたラストがとてもよかった。みんなのにっこりした顔が思い浮かぶ。うっかりがにっこりになってよかった。校長先生に変身して「クビ」を宣告するシーン、面白かった。

第三話『ないしょの五日間』

冒頭、ヨットの描写が詳しくて、ランサムの『ツバメ号とアマゾン号』シリーズを思わせる。ヨットがお好きなのだろうなと分かる。好きな気持ちを隠さずに書かれた文章に、読者も胸が高鳴るようなあこがれを感じるのだと思う。
スバルが行方不明になり、レオンとヒキザエモンはあれこれ推理しながら、まずは事の成り行きを見守る。昇平に変わったときにこっちがスバルだったと気づいても、しばらく黙って様子を見るところがさすがだ。スバルの行動によって、子どもたちと親、先生(、テントウムシ)のあつまりが開かれる。昇平のお父さんに対する冴子先生の態度、すごくかっこよかった。
しばらく成り行きを見守ったところで、レオンはふたりの気持ちをたしかめることにする。はじめはスバルの行方不明が事件だったけれど、いつの間にかふたりの気持ちが焦点になっている。「きみたちが満足できるように解決したい」と言うレオンが、とても格好良くてすてきだ。
ふたりが元のふたりに戻るのを手伝う。レオンと恭太郎、レオンとスバルがそれぞれ話をし、そして恭太郎とスバルもたくさん話をする。この五日間にあったことや思ったことを話す。スバルが読み取らずに話そうと言ったのが特にうれしかった。話をするうちに、入れ替わっている間に感じたことや分かったことの他にも、いろいろなことに考えを巡らせたり気がついたりしていく。正直に話をするふたりを、とてもいいなと思った。さいごに、ほんとうのことを両親に話したほうがいいか、恭太郎とスバルは悩む。レオンが「ぼくなら……」と意見するところがとてもいい。これがいいという断言ではなく、ぼくならそうするという提案。レオンが言ったように両親を心配させたりきずつけたりしないためにということはもちろんだけれど、それだけではなく、このふたりは、それぞれの抱えていた不安や不満とよく向き合って考えたから、すべてを話さなくても、この先ももう大丈夫だろうと、思ったのかもしれない。私は、物語を読んで、このふたりならこの先きっとふたりらしくすてきに生きていきそうだと思えた。
ページをめっくて「それからあとのこと」の章が出てきたのが個人的にはとてもうれしかった。さらに、タンポポ号の登場に、再びとてもうれしい気持ちになった。あぁ、そうだったんだ! 『森の石と空飛ぶ船』でエリがさらっと説明したあの船が、この船だったなんて! その物語だったなんて!

おまけ『ヒキザエモンの冒険』

ヒキザエモンさんは、頼りになるし、子どもみたいに心がはしゃいでしまう時もあり、かわいいところもあって、愛されるキャラクターだと思う。そのヒキザエモンさんのよさが存分に出ているおはなし。ヒキザエモンさんのひとつひとつの言動がすべていい。ものすごい冒険の物語。


2022/05/05

[感想文] Page Top