雨やどり


岡田淳さんの本を読む -- ミュージカルスパイス
こそあどの森の物語シリーズ第5巻。
 

ミュージカル

舞台の良さが、一冊の本の中にぎゅっと詰まっている。他の作品も舞台のようなテンポ感を持っているものが多いけれど、タイトルにあるようにまさに「ミュージカル」な一冊。
登場人物の紹介も「出演者たち」という見出しになっているのがいい。ホタルギツネの「すべては、なぞである」の紹介も好きだ。おわりの「なかでつかわれた曲」というのも、いい。
 

カタラズカ

カタカズラ。並べかえると、タカラズカ。宝塚。これは作者がおっしゃっていた。発想がすごい。この話をされたとき部屋じゅうに感心したようなどよめきが起こり、「これを聞けただけでも、今日ここにきてよかったでしょ?」と笑った岡田淳さんが、いまでもはっきりと思いうかぶ。2017年7月の鎌倉文学館でのギャラリートークのことだ。これが、私が岡田淳さんにはじめて会った日になる。それまで、作家さんが同じ時代に同じ世界に生きているとは想像もつかなかった私は、失礼だが、ほんとうに生きている! 歩いている! しゃべった! と思った。もう、震えがとまらなかった。それから作品はより身近になったし、これからもずっと、全肯定の気持ちで読んでいくに違いないと感じた。
植物には、何か特別な力がある。同じ日に、岡田淳さんはそうもおっしゃっていた。第4巻のユメミザクラもふしぎで特別な力を持っていた。植物の不思議な力をこんなにすてきな物語にしてくれる岡田淳さんはすごい。
 

もうひとつの話

この物語は、「ひとつめの話」がメインなのだろうけれど、「おなじ日におこったもうひとつの話」は最高だと思う。ホタルはやっぱり、こそあどの森のなかでも人気のキャラクターだろうし、私も好きだ。
トワイエさんとの会話が良かった。ふたりがそれぞれ言ったことは、ふたりが会話をしていなければ、言わなかったことだ。それぞれに考えていることを口に出すということ、話し合う相手がいるということは素晴らしいと思える場面だ。綺麗事としてではなく、物語が実現してくれている。
 

歌い終えて

この物語のいいところは、歌い終えたあとも、みんなが、恥ずかしいという気持ちになっていないところだ。楽しいとか誇らしいとか、そういう気持ちになっている。それは、ミュージカルスパイスの効き目がきれても変わらないだろう。普段ならしないように喋り歌ったこともまた、彼ら自身なのだ。そう、本人も周りのみんなも自然に思えるのだ。だからこそ「つけたし」がこんなにも楽しく嬉しい気持ちで読める。
 

2019/11/27

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