雨やどり


岡田淳さんの本を読む -- 学校ウサギをつかまえろ

夢・現実

この物語は、ほかの世界に行かない。この世界のある場所で起こったことだ。現実でありながらファンタジーのように思えるのは、岡田淳さんのファンタジーがいつも現実のように思える理由と同じだろう。夢は現実に近いし、現実もまた夢に近いのだ。

知恵

みんなが知恵を出し合い、力を合わせる。それだけのことが、こんなにたのしい。こっちにこい、と繰り返す伸次の声にのんこが「チコ」という名前なのかと聞くシーン。4人が笑いをこらえて震えているのが、読者にまで伝染する。
ウサギが逃げ出し、大変なことになっているのに、おもしろいことになってきた、とみんな思っているのだ。わくわくがかならずしも非日常のなかにだけあるのではない、ということを思い出させてくれる。私たちの日常はこんなにも魅力的で、おかしくて、たのしいものなのだと、わかる。

挿絵

岡田淳さん自身の挿絵ひとつひとつが、ひとコマ漫画のように見える。それをいろんな角度から眺めたものが文章になってついてくる。その場面でセリフのない人もみんな、そこには何らかの思いを持って存在していることが伝わる。ひとりひとりの立ち回りが、目に見えるのである。こういうところが、やっぱりすごく演劇的だと思う。

インスタントコーヒー

たとえば、インスタントコーヒーを美味しくないと思うのは、美味しいコーヒーを飲みたいと思うからだ。彼らの飲んだインスタントコーヒーが美味しかったのは、高級インスタントコーヒーだったからではもちろんない。ウサギを捕まえるために一緒にいたみんなだったが、今度は、コーヒーという存在が、ウサギを捕まえたあとのみんなを同じ場にいさせた。
この場面でのコーヒーは、会話をするためのきっかけとしてではなく、みんなの会話の味として存在している。そして、彼らはこれから、コーヒーがなくても同じように会話ができるのだろう。

事情

美佐子はさいご、涙を流す。ひげのにいちゃんが言うように、それぞれに事情があるのだ。事情が感情ではないことに、本人がいちばんよく気がついたんじゃないだろうか。


2019/10/28

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