雨やどり


岡田淳さんの本を読む -- フングリコングリ 図工室のおはなし会

図工室

図工室にはいつも動物があらわれる。『放課後の時間割』では、学校ネズミがあらわれ、図工の先生である「ぼく」にいろいろなお話を聞かせてくれた。今回は、図工室をおとずれる動物たちに、図工の先生が話して聞かせるおはなし6話。
 

『フングリコングリ』

読んだ人はみんなやってみたに違いない。心の中で「なんて」のあとをなんてつづけようか迷ったアスカの楽しい気分が伝わってくる。焦る先生とは対照的に「ぼくが教えたんだ」と誇らしげなカズマもかわいい。そして、追いかけていた先生たちも結局楽しんでしまうのがとてもいい。悪役のいない物語がこんなにもおもしろい。
 

『むぎゅるっぱらぴれ、ふぎゅるっぴん』

お話を始める前、金魚が肩をすくめるシーンですでに楽しい。よくこんなにリズムと音のいい呪文を思いつくのだろうか、トオルとアキラ(=岡田淳さん)はすごい。私たちは私たちの呪文で透明人間にならなくちゃ、と思うけれど、そのためのいい呪文が、いつかは思いつけるような気がする。この物語がそういう気持ちにさせてくれる。
 

『かっくんのカックン』

この物語は、初めて読んだ時から印象に残った。かっくんと聞くだけでおだやかな気持ちになる魔法を、読者の私たちもかけられてしまった。かっくんのカックンがもつ力はたしかにふしぎなのに、かっくんがカックンをしなくてよくなったことのふしぎさが、それを上回って物語は終わる。わくわくするような冒険やファンタジーのふしぎだけでなく、日常の中にこんなに素敵なふしぎがあるのだ。
 

『壺に願いを』

カエルが雨を「いい天気」と言ったのが、すごく気に入っている。“晴れ=いい天気”はたしかに、人間の発想だ。雨でできなくなった体育の時間は、とても楽しいものになった。ダジャレというか言葉遊びというか、岡田淳さんのそういうもののセンスがとても好きだ。
 

『フルーツ・バスケット』

フルーツ・バスケットって、大きくなった私にとってはすっかり懐かしい言葉だなぁと思う。小学生くらいまでは飽きるほどどこでもやったのに、最近ではやらないだけじゃなく、見かける機会もない。このおはなしは“想像力”の話だと思う。ガラスが割れる瞬間にほかの誰かの心の中に入り込んでしまう。それぞれにいろんな事情がある。話さなければ分からないこともあるけれど、話さなくても分かったのは、このふしぎな出来事が、彼らの想像力や勇気を呼び覚ましてくれたからだろう。
 

『なんの話』

出ました! ヤモリ! 机のむこうのはしから顔をだすヤモリの挿絵が、あまりにかわいい。しかもヤモリと「ぼく」の会話がいい。あたりまえのすごいことに気づかされる。
このおはなしの喋りかたがすごく好き。「べきだったのさ、などとおさまっている場合じゃないぞ」ってところとか。このおはなしは、何度読んでも、読みはじめた瞬間にはもうラストシーンまで思い浮かんでいるくらい好きだ。こんなにすてきな大人が世の中にはいるということを、心の底から信じられる。教頭先生のせりふは、いいとかではなく、ほんとうにすてきだ。家まで走ってかえった「ぼく」の気持ちがとてもよくわかる。私も走りだしたくなった。
このおはなしは、岡田淳さんの短編の中でいちばん好きかもしれない。
 
 
2019/11/13

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